「夢」を語る大切さ
創業計画書はいくつも作ろう
創業するに当たっては、自分の「夢」をしっかりとイメージして、周囲にアピールできることが大切です。その為にも創業計画書は、区の創業融資や国民生活金融公庫の融資に必要な所定の書式だけでなく、オリジナルの創業計画書をしっかりと作りこんで置くと良いでしょう。創業計画書は、「自分」「スタッフ」「スポンサー」の3者に向けてそれぞれ作成しておくことが理想です。それは、堅苦しい詳細なものだけである必要はなく、相手に「想い」が伝わることが大切です。2つの事例から創業計画書のあり方について考えてみましょう。
1.情報通信関連の業務で創業を目指すAさんの例
情報通信関連の業務で創業を目指すAさんは、IT関連企業でのキャリアをベースに所定の書式で創業計画書を作成しました。融資に必要となる信用保証協会の保証を受けるには不明確な点が多かったため、計画書の修正と補足資料の作成をするようアドバイスしましたが、全く準備がなされていませんでした。しかも、計画の説明を同席していた人物(共同経営者ではない人)が行なうのです。2時間以上の面談において、創業者本人は殆ど話をしませんでした。このような状況でしたので残念ながらAさんは融資を受けられませんでした。
この事例では、何が問題だったのでしょうか。じっくりとお話を伺うと、Aさんは大きな「夢」を持っています。ところが、生来の口下手が災いして、しっかりと説明をする事が出来なかったのです。創業に当たって融資を受けたり、協力者を募ったりする為には、創業者が自ら事業について「語る」事が不可欠です。従って、口下手なのであれば、紙の資料などをしっかりと準備して、数字や図解など「話す」以外の部分で補う必要があるのですが、完全な準備不足でした。
2.映像製作の業務で創業を目指すBさんの例
映像製作の業務で創業を目指すBさんは、広告代理店でのキャリアをベースに創業を計画しました。指定された創業計画書だけでなく、オリジナルの創業計画書、業務経歴書、予想損益計算書・予想貸借対照表、予想資金繰り表、などなど自分の「夢」や事業の成功可能性をアピールする資料を揃えられるだけ揃えて融資の斡旋を受けました。金融機関との面談についても、コンサルタントと事前にリハーサルをしておく入念さで、オリジナルの創業計画書を何回も書き直していたので、書類を見ずに説明ができました。満額の保証が受けられただけではなく、更に追加の保証枠まで提示され、円滑に融資を受けることが出来ました。
この事例では、何が鍵だったのでしょうか。最初にお話を伺った時点では、事業イメージも曖昧でした。ところが、何度も計画書を書き直し、補足資料を準備する中で「その事業を全く知らない人にも分かるように説明できる」ようになったのです。その結果、創業者自身で自信を持って「夢」を語る事ができ、将来の大きな可能性を示すことができました。
2つの例からも創業計画書は単なる形式的な書類では無いことが分かります。創業者の「夢」を実現する熱い想いを込めて作成しようと思えば、たかが数枚の書式でも、その裏側で用意する資料は膨大なものになるのです。融資を受けようとする前に何度も何度も創業計画書を書き直して、自分の中で成功のイメージを明確に描き出す事が大切なのです。
(中野区中小企業診断士会 鈴木 佳文)