従業員満足を得られてこそ利用者満足がある
※2010年8月4日に中野区HPに掲載された記事です。
窮地に至った「介護ビジネス」の経営再構築に向けて
A社は、都内の4拠点で「訪問介護事業」「居宅介護支援事業」を営む介護ビジネス企業であり、平成12年の介護保険法施行と同時に創業し業績も順調に伸ばしてきました。従業員20名、ヘルパー80名を擁し売上も2億円弱を計上しています。大手の事業所を尻目に利用者のクチコミや紹介で利用者の拡大も図れてきましたが、外部環境の脅威に晒され新たな経営課題が浮上してきました。そこで、次なる一手とはどのようなものなのでしょうか。
1.外部環境の脅威による収益減少と人材不足に直面
平成18年4月に5年振りの改正介護保険法が施行されました。介護報酬料の改正に伴い、介護保険対象者の減少、予防給付新設等による業界全体を揺さぶる介護報酬減、さらには大手介護業者の不祥事をも招いた事業者規制の強化による人件費の高騰など、いままでの「介護ビジネス収益モデル」は見直しの状況となりました。
ここ数年の景気回復による求人募集の高止まりがヘルパーの応募者の減少を招いています。労働条件の厳しさの割には賃金が低いという風評が大きく影響しているのです。現在でも社会的使命に燃えた応募者はいますが、市場の求人数には追いつかない状況です。
2.次なる一手は新規事業への展望と内部管理体制の強化
業界動向として在宅介護から施設介護へと関心が高まっている中、限られた資本では限度があるため、改正により生まれた新たなサービス体系である「地域密着型サービス」への進出を検討しています。具体的には「小規模多機能型居宅介護」ですが、投資額も考慮に入れ慎重に検討していく方針です。
併せて、利益の源泉となる運営経費の効率化、すなわち管理システムの構築が当面の重要課題です。労働集約的な運営の中にも従業員とヘルパー(パートの比重が高い)の連携や協働の体制づくりが今回の見直しの重要項目であり、目標達成には従業員、ヘルパーの協力は必須条件なのです。
3.従業員、ヘルパーの満足度を高める「場」を作る
給料体系の見直し、仕事のマニュアル化、システムへの理解等と経営側からスタッフへの要求は止まるところを知りませんが、従来からの社内報や一方的な情報提供では効果はあがりませんでした。
そこで、経営状況を開示し成果に対する報酬体系を明確にすることにしました。まずは事業所の所長クラスの経営会議、事業所ごとの従業員およびヘルパーとの懇談会を実施し、提案や不満内容の把握、問題案件の解決に対し積極的に場を設け取り掛かることにしました。今までも、インセンティブの実施や提案制度も実行してきましたが、逆効果となり廃止しています。ヘルパーのロールプレイ訓練や介護士資格への助成制度が好評であり、利用者へのサービスの品質維持や利用者の満足度の向上に役立つ結果が見えてきています。
4.顧客満足を生み出す真のコミュニケーション
情報の供与や共有は勿論大切ですが、従業員やパートを如何に参画させ、本人の持っている潜在的な創造性や革新性を引き出せるかが重要なのです。その参画した提案なり、改善を具体化しフィードバックすることにより従業員が満足した結果、組織パワーがあがるということです。
従業員やパートヘルパーの確保・育成がこの介護ビジネスの根幹である以上、人の側面が何よりも重要であり、現在の経営危機を乗り切る最重要課題と位置付けられると考えます。介護ビジネスに限らず、スタッフが「ここで働けて幸せ」と感じ、積極的に参画してお客様の為にサービスを提供していくとき、顧客満足を生み出す真のコミュニケーションが生まれるのです。
(中野区中小企業診断士会 野村 潔)