商いの原点を問い直す
※2010年8月4日に中野区HPに掲載された記事です。
鰻屋の事例から「お客様第一主義」を考える
繁盛店を目指すにあたっては、「お客様第一主義」を抜きには考えられません。ところが、実際に繁盛しだすと、商売の基本である「お客様第一」の精神が忘れられてしまうことも起こります。今回は、私が実際に顧客として体験した事例をご紹介します。
1 8月の猛暑の中、30人の行列ができるO鰻店
8月の中旬、M市の知人から「鰻をご馳走するから出てこないか」との誘いがありました。連日の暑さに少々参っていた時でもあり、家内を連れておっとり刀で駆けつけたのは、某有名鰻屋の「O店」でした。
私ども夫婦は初めてだったのですが、行列ができるので有名な店とのこと。昼食をご一緒するので、私どもは開店11時30分の15分前に行ったところ、既に30人位が並んでいました。知人の奥様が猛暑の中を何と1時間前から並び、列の一番前を確保して下さっていたお蔭で一番乗りという気持ちの良い雰囲気のなかで入店できたのでした。
2 古風な店内と美味しい鰻
繁盛店になる要素として、雰囲気の良い「店舗」と優れた「商品」が求められます。店舗は、民家を改造した古風な雰囲気で、いかにも老舗の鰻屋という印象でした。店内はすぐに満杯になり、外には入りきれない人が5~6人行列をつくっていました。
しばらくすると注文を取りにきたのですが、知人の話では料理が出てくるのに30分はかかるとのこと。取り敢えずビールを飲みながら待ちました。しばらくして出てきた鰻の白焼きと鰻重は絶品。O店は、繁盛店に求められる2つの要素をクリアしていました。
3 店外の行列に注意を払わない店員
私達は約1時間半ほどいて店の玄関を出ましたが、まだ20人位の人が並んでいました。そのとき熱中症で倒れた人がいるから「救急車を呼んでくれ」との声が玄関受付に届いたのです。見ると50過ぎのご婦人が外廊下に横たわっており、他の行列客の通報で直ぐに救急車が来たのでした。お店では、この事態にも何ら反応を示すことなく業務を続けていました。
4 O店の問題点
ここで、O店の対応について考えてみましょう。
(1)猛暑の中、30人位が並んでいるにもかかわらず、開店前だからといって門を閉ざしたままでいる。誰のお客様と考えているのでしょうか。
(2)熱中症で倒れたご婦人は外廊下に横たわっていたのですが、お店の人は誰も来ず、いわんや涼しい室内に誘導して休んでもらうこともしていませんでした。
(3)このような事件が起きたにも拘わらず、その後も長い行列を放置していました。確かに趣のある店舗、絶品の商品で有名な店なのですが、ここまで来るとお店の接客姿勢に疑問を感じざるを得ません。商人の基本精神である「お客様第一主義」とはどういう事なのか改めて考える必要がありそうです。真にお客様の事を第一に考えるのであれば、いくらでも工夫は出来るはずです。O鰻店の事例を教訓として、もう一度原点を振り返ってみましょう。
(中野区中小企業診断士会 榊原貞夫)